updated_at: 2026/4/18
景気変動期のエンジニア採用戦略|不況をチャンスに変える実践ガイド
景気後退・市場変動期にエンジニア採用で攻めるべきかの判断基準とチャネル戦略・報酬設計の実践手法を解説
TL;DR(この記事の要約)
景気後退期は優秀なエンジニアが市場に流出する希少なタイミング。採用を止める企業が多い中、動ける企業が最良の人材を獲得できる
「攻めの採用」か「守りの採用」かは、自社のキャッシュランウェイと事業計画から逆算して判断する
レイオフ人材・転職潜在層へのアプローチはスカウトの質とスピードが勝負。市場が動く前に声をかける
不況期の採用では**報酬以外の価値提案(EVP)**が決め手になる。安定性・成長機会・裁量権を具体的に伝える
採用を「コスト」ではなく**「景気回復後の事業成長への先行投資」**と位置づけることが経営判断の鍵
このページでわかること
景気変動がエンジニア採用市場にどう影響するか
不況期に採用を「攻める」べきか「守る」べきかの判断フレームワーク
レイオフ経験者・大手出身エンジニアへの効果的なアプローチ方法
限られた予算で採用の質を落とさないための報酬設計と条件提示
景気回復時に組織を一気にスケールさせるための採用パイプライン構築法
1. 景気変動期にエンジニア採用市場はどう変わるのか
「採用氷河期」は企業側にとってのチャンス
景気後退局面では、多くの企業が採用を凍結する。実際、2022年後半から2025年にかけてのグローバルテック企業のレイオフは累計で数十万人規模に達し、2025年だけでも約24万人のテクノロジー人材が解雇された。
ただし、日本のエンジニア採用市場は構造的に異なる。ITエンジニアの有効求人倍率は2026年時点で3倍台後半を維持しており、景気が多少冷え込んでも「エンジニアが余る」状況にはなりにくい。
つまり、景気後退期のエンジニア採用市場には以下の特徴がある。
外資系・大手テック企業からの人材流出が起きる:グローバルなレイオフの影響で、これまで転職市場に出てこなかった層が動き始める
候補者の転職活動が慎重になる:安定志向が強まり、「今の会社にいた方がいいかも」と考える潜在層が増える
採用競合が減る:多くの企業が採用を絞るため、スカウトの競争率が下がり返信率が上がる
報酬の相場感が変化する:一部のポジションでは、好況期ほど強気の年収交渉が起こりにくくなる
日本特有の「二重構造」を理解する
日本のエンジニア採用市場には、グローバルの景気後退と国内の構造的人手不足が同時に存在する「二重構造」がある。
経済産業省の推計によれば、2030年にはIT人材が最大79万人不足するとされている。この構造的な需給ギャップは景気変動では解消されない。
一方で、外資系企業のレイオフや国内企業のDX投資の見直しにより、特定のスキル・経験を持つエンジニアが一時的に市場に出てくることがある。
この「構造的な人材不足 × 一時的な人材流出」の交差点を捉えることが、景気変動期の採用戦略の本質だ。
過去の景気後退から学ぶ採用パターン
過去の景気変動期における採用パターンを振り返ると、一定の法則が見える。
2008年リーマンショック後:採用を凍結した企業が多数。一方、この時期に積極採用を続けた企業は、その後の回復期に人材面で大きなアドバンテージを得た
2020年コロナショック後:一時的に採用がストップしたものの、DX需要の急増で半年後にはエンジニア採用が過熱。採用を止めた企業は再開時に競争激化に直面した
2023年〜2025年テックレイオフ期:GAFAMを中心としたレイオフが相次いだが、日本国内のエンジニア採用需要は底堅く推移した
共通するのは、景気後退期に採用を完全に止めた企業ほど、回復期の人材獲得で苦戦するという事実だ。
景気変動期に「動ける」企業と「動けない」企業の差
景気変動期に採用で成果を出す企業には、いくつかの共通点がある。
採用を「投資」として位置づけている:人件費を単なるコストではなく、将来の売上を生む投資として捉えている。だから景気後退期でも予算を維持できる
採用チームが常に市場をウォッチしている:普段からスカウト運用や候補者との接点を維持しているため、市場が動いたときにすぐ反応できる
選考プロセスが標準化されている:急に「この人を採りたい」となっても、面接設計や評価基準がすでに整っているため、スピーディに対応できる
経営層が採用の重要性を理解している:CEOやCTOが採用にコミットしており、「今は止めよう」ではなく「今だからこそ動こう」という判断ができる
逆に言えば、好況期に採用の仕組みを作っていなかった企業は、景気変動期に動こうとしても準備不足で出遅れることになる。採用力の差は、景気変動期に最も顕著に現れる。
2. 「攻め」か「守り」か ── 景気変動期の採用判断フレームワーク
採用判断マトリクス:4つの象限
景気変動期に採用を「攻める」か「守る」かは、感覚ではなく2つの軸で判断する。
軸1:キャッシュランウェイ(資金的余裕)
18ヶ月以上の運転資金がある → 攻められる
12ヶ月未満 → 慎重に判断
軸2:事業成長フェーズ
プロダクトがPMF済み・売上成長中 → 採用で加速すべき
まだPMF前・収益モデル模索中 → ピンポイント採用に絞る
この2軸で4象限に分類する。
象限A(資金あり × 成長中):全力で攻める 景気後退で競合が採用を絞っている今こそ、最良の人材を獲得するチャンス。採用予算を維持もしくは増額し、スカウトを積極的に行う。
象限B(資金あり × 模索中):戦略的に攻める 特定のキーポジション(CTOやテックリード)に絞って採用する。市場に出てきたシニア層をピンポイントで口説く好機。
象限C(資金少 × 成長中):効率重視で攻める リファラル・副業採用・タレントプールなど、低コストチャネルに集中する。人材紹介手数料が捻出しにくいなら、スカウト媒体で自社採用力を強化する。
象限D(資金少 × 模索中):守りに徹する 現有メンバーのリテンションを最優先。採用よりも、組織の生産性向上にリソースを振る。ただし、タレントプールへの種まきだけは続ける。
経営層を説得する「投資対効果」の語り方
景気後退期に採用予算を確保するには、経営層への説得が不可欠だ。以下のロジックが有効になる。
1. 「採用コスト」ではなく「機会損失」で語る
「今、エンジニアを1名採用するコストは80万円。しかし景気回復後に同等の人材を採用するには150万円以上かかり、さらに6ヶ月のリードタイムが発生する。今動かないことの機会損失はコストの2倍以上だ」
2. 競合の動きを可視化する
競合企業の採用ページやスカウト活動をモニタリングし、「A社は採用を止めた。今、A社が狙っていた層にアプローチすれば競争なく採れる」と伝える。
3. 過去の景気後退期に採用投資を続けた企業の事例を引用する
景気後退期にも採用投資を続けた企業が回復期に業績を伸ばしたケースは多い。たとえば、好況期に採用単価が高騰する前に人材を確保する戦略は、結果的に中長期のコスト効率を大きく改善する。
採用予算の「ゼロベース」見直し手法
景気変動期は、これまでの採用予算配分を根本から見直す好機でもある。以下のステップで予算を再設計しよう。
ステップ1:現在の採用チャネル別ROIを算出する
各チャネル(人材紹介、スカウト媒体、リファラル、求人広告など)について、過去12ヶ月の「投資額」と「採用数」「入社後の定着率」を可視化する。景気変動期には、好況期に「なんとなく」続けていた低ROIのチャネルを見直す判断がしやすくなる。
ステップ2:ポジションごとの優先度を再評価する
すべてのオープンポジションに対して、「このポジションが6ヶ月埋まらなかった場合の事業インパクト」を定量的に評価する。事業継続に直結するポジション(例:プロダクトのリードエンジニア、唯一のインフラ担当)は最優先で採用を続け、「あれば嬉しい」レベルのポジションは一時凍結する。
ステップ3:浮いた予算をリテンションに振り向ける
採用ポジションを絞ることで浮いた予算は、既存メンバーの報酬調整や学習支援に回す。景気変動期に優秀なメンバーが流出するのが最大のリスクだからだ。
ステップ4:四半期ごとにリバランスする
景気変動期は市場環境が短期間で変わる。「一度決めたら1年間そのまま」ではなく、四半期ごとに市場動向と自社の財務状況を確認し、採用計画をアジャイルに調整する。
3. レイオフ人材・転職潜在層への効果的なアプローチ
レイオフ経験者へのスカウトで押さえるべきポイント
外資系企業やグローバルテック企業のレイオフにより、高いスキルを持つエンジニアが転職市場に流入することがある。彼らへのアプローチには、通常のスカウトとは異なる配慮が必要だ。
やってはいけないこと:
「レイオフされたということは、チャンスですね」といった無神経な表現
「条件面で柔軟に対応いただけるかと」という足元を見た交渉
会社都合の退職であることを面接で掘り下げすぎる
効果的なアプローチ:
スキルと実績に対する正当な評価を伝える:「○○のプロジェクトでの△△の経験に注目しました」
レイオフの背景を理解していることを示す:「市場環境の変化によるものと理解しています」
自社の事業安定性や成長計画を具体的に伝える:「当社は○○の理由で現在も成長投資を継続しています」
選考スピードを上げる:転職活動中の候補者は他社も受けている。初回面談から1〜2週間以内にオファーまで持っていく体制をつくる
レイオフ人材の選考で見るべきポイント
レイオフ経験者を選考する際には、通常の選考基準に加えて以下の観点を持つとよい。
確認すべきこと:
前職でのプロジェクト規模とそこでの具体的な貢献。大企業出身者は「チームで成果を出した」と語りがちだが、本人の担当範囲と意思決定を深掘りする
大規模組織から少人数チームへの移行に対する覚悟。スタートアップでは「一人で何役もこなす」ことが求められるため、その適性を見極める
技術スタックの転換に対する柔軟性。外資テック企業は独自の社内ツールやフレームワークを使っていることが多い。汎用的なスキルへの転換ができるかを確認する
レイオフ後の過ごし方。OSS貢献、個人開発、学習などに時間を使っている候補者は、自律的に動ける人材の可能性が高い
避けるべき判断ミス:
「有名企業出身だから即戦力だろう」という安易な期待。大企業での経験がスタートアップで直接活きるとは限らない
「年収が下がることを受け入れてくれるはず」という甘い見積もり。外資テック出身者の年収期待値は国内企業の水準を大きく上回ることが多い
「転職潜在層」が動き始めるタイミングを捉える
景気変動期には、普段は転職を考えていない「潜在層」が動き出す特有のトリガーがある。
自社のレイオフや希望退職の噂が出始めたとき
ボーナスや昇給が期待値を下回ったとき
組織再編でチームやプロジェクトが変わったとき
同僚が転職し始めたとき(連鎖退職の初期サイン)
これらのトリガーが起こるタイミングを読み、先回りしてスカウトを送ることが重要だ。具体的には、以下のシグナルを定期的にウォッチする。
競合企業のIR・プレスリリース(業績下方修正、事業撤退、人員整理)
テック系メディアでのレイオフ関連ニュース
LinkedInやX(Twitter)での転職を匂わせる投稿
スカウト媒体での新規登録者やプロフィール更新者の増加
スカウト文面の設計:不安に寄り添いつつ、機会を提示する
景気変動期のスカウトメッセージは、好況期とはトーンを変える必要がある。
好況期のスカウト: 「急成長中のプロダクトを一緒にスケールさせませんか?」→ 成長・チャレンジ訴求
景気変動期のスカウト: 「エンジニアが技術選定から関わり、腰を据えて開発に集中できる環境です」→ 安定・裁量・開発環境訴求
候補者が求めているのは「派手な成長ストーリー」よりも、「この会社なら安心して技術に集中できる」という実感だ。
スカウトメッセージに含めるべき要素は以下の通り。
事業の収益基盤や資金調達状況(安定性の担保)
エンジニアの裁量権や技術選定への関与度
リモートワーク・柔軟な働き方の制度
直近の開発実績やリリース頻度(事業が止まっていないことの証明)
4. 限られた予算で採用の質を落とさない報酬設計
「年収だけの勝負」から脱却する
景気後退期に採用予算が限られている場合、年収のみで競合と張り合うのは現実的ではない。ここで重要になるのが**トータルリワード(総報酬)**の考え方だ。
エンジニアが転職先を選ぶ際に重視する要素は、年収だけではない。
技術的な挑戦:新しい技術に触れられるか、技術負債に埋もれないか
働き方の柔軟性:フルリモート、フレックス、副業可否
成長機会:書籍補助、カンファレンス参加、社内勉強会
チームの質:優秀な同僚と働けるか
事業のインパクト:自分の仕事が社会にどう影響するか
これらの要素を金銭換算して候補者に提示することが効果的だ。
「年収は○○万円ですが、書籍補助年12万円、カンファレンス参加費全額負担、リモート手当月3万円を含めると、実質的な処遇は○○万円相当です」
景気変動期に有効な報酬パッケージの工夫
1. サインオンボーナスの活用
基本年収を大幅に上げられない場合、入社時の一時金(サインオンボーナス)で初年度の総報酬を引き上げる方法がある。固定費の増加を抑えながら、候補者の「今転職する理由」を作れる。
2. 業績連動型のインセンティブ設計
「景気が回復して業績が上がったら報酬も上がる」という仕組みを透明性高く設計する。四半期ごとの目標達成率に連動するボーナス制度は、候補者に「この会社と一緒に成長できる」と感じてもらえる。
3. ストックオプション・RSUの活用
スタートアップなら、現金報酬を補完するエクイティ報酬が有効だ。景気後退期はバリュエーションが比較的低いため、候補者にとってはむしろアップサイドが大きいと訴求できる。
「今のタイミングで入社いただければ、○○株のSOを付与します。景気回復期のバリュエーション上昇を考えれば、タイミングとしてはむしろ有利です」
4. 副業・兼業を認める制度
「年収は希望より少し低いが、副業OKなので総収入は維持できる」という選択肢を用意する。特にシニアエンジニアには響きやすい設計だ。報酬制度全体の設計についてはエンジニア採用で勝つための報酬設計と年収戦略の完全ガイドも参考にしてほしい。
年収交渉の進め方:足元を見ない、でも過剰に出さない
景気変動期の年収交渉では、以下のバランスが重要になる。
市場相場を正確に把握する:景気後退だからといって「安く採れるはず」と考えるのは危険。優秀なエンジニアには常に複数のオファーがある
候補者の現年収ではなく、スキルに対する適正報酬を提示する:レイオフされた候補者の足元を見ないこと。長期的な信頼関係を損なう
条件交渉の余白を残す:最初のオファーで全力を出し切らず、候補者からの交渉に応じる余地を持つ
非金銭的な条件で差をつける:「年収は他社と同等だが、フルリモート + 副業OK + 技術選定の裁量がある」で決まるケースは少なくない
オファー面談での「不安解消」の進め方
景気変動期のオファー面談では、通常時以上に候補者の不安に丁寧に向き合うことが重要だ。以下の不安とその解消法を事前に準備しておこう。
「この会社は大丈夫なのか?」という財務面の不安:
直近の売上推移やキャッシュポジションを具体的な数字で共有する(NDAを締結した上で)
主要顧客や契約の安定性について説明する
「景気後退の影響をどう見ているか」について経営者の見解を率直に伝える
「入社後にレイオフされないか?」という雇用安定性の不安:
現在の組織規模と採用計画の関係を説明する
「このポジションがなぜ事業に不可欠か」を具体的に伝える
過去の景気変動期に自社がどう対応したかの実績を共有する
「今転職するのは正しい判断か?」というタイミングの不安:
「景気変動期だからこそ、このポジションで経験を積むことの価値」を伝える
現職に残った場合のリスク(成長機会の減少、組織再編の影響など)を客観的に整理する
「今の市場環境だからこそ、入社後すぐに大きなインパクトを出せる」というポジティブな文脈を提示する
5. 景気変動期に強い採用チャネル戦略
チャネル別の優先順位を再設計する
景気変動期には、チャネルの費用対効果が通常時とは変わる。以下の優先順位でチャネル投資を見直すべきだ。
優先度A:低コスト × 高効果
リファラル採用:景気変動期こそ「知り合いの会社に声をかけてみよう」と考えるエンジニアが増える。紹介インセンティブを増額してでもリファラルを強化すべき
タレントプール活用:過去に選考を辞退した候補者や、タイミングが合わなかった人材に再アプローチする。景気変動が転職のきっかけになることもある
自社テックブログ・SNS:コストはほぼ運用工数のみ。継続的に情報発信している企業は、景気変動期に「ここなら安心して働けそう」と候補者に想起される
優先度B:中コスト × 中〜高効果
スカウト媒体(ダイレクトリクルーティング):競合が採用を絞ることでスカウトの競争率が下がり、返信率が向上する好機
技術イベント・ミートアップ:不況期でもエンジニアコミュニティは活発。スポンサードや登壇で認知を獲得し、中長期のパイプラインを構築する
優先度C:高コスト × 効果限定的
人材紹介エージェント:手数料が高いため、経営幹部クラスやピンポイントのポジションに限定して活用する
大型採用イベント出展:費用対効果の見極めが難しい。参加するなら小規模・特化型のイベントを選ぶ
リファラル採用を「仕組み」で強化する
景気変動期にリファラル採用の成果を最大化するには、「社員に声をかけるだけ」では足りない。仕組みとして強化する必要がある。
インセンティブの見直し:
景気変動期には紹介インセンティブを引き上げることを検討しよう。人材紹介手数料(年収の25〜35%、つまり150万〜250万円程度)と比較すれば、リファラルインセンティブを30万〜50万円に設定しても圧倒的にコスト効率がよい。
紹介のハードルを下げる:
「知り合いに正社員候補がいたら紹介して」ではなく、「カジュアル面談に来てくれそうな人がいれば紹介して」とハードルを下げる
紹介フォームを簡素化し、名前とSNSアカウントだけで紹介できるようにする
「紹介したら必ず選考に進む」わけではないことを明確にし、紹介者の心理的負担を減らす
定期的なリマインド:
月1回の全社ミーティングで「現在募集中のポジション」をリマインドする
オープンポジションが更新されたらSlackで通知する
「こういう経験の方を探しています」という具体的なペルソナ情報を共有する。漠然と「エンジニアを探しています」では紹介しにくい
リファラル採用の制度設計についてはエンジニア採用を加速させるリファラル制度の作り方と成功事例で詳しく解説している。
スカウト運用の「景気変動期モード」
景気変動期のスカウト運用では、通常時と以下の点を変更する。
ターゲットの拡大
レイオフが報じられた企業の在籍者・元在籍者を優先的にサーチする
普段はスカウト対象にしない「ログイン日が古い」候補者にも再アプローチする(景気変動が転職検討のきっかけになっている可能性がある)
外資系企業在籍者へのアプローチを強化する
メッセージのカスタマイズ
事業の安定性を裏付ける具体的な数字(売上推移、調達額、黒字化時期など)を盛り込む
「なぜ今、採用を強化しているのか」の理由を明確に伝える
候補者の不安に先回りして回答する情報を含める
フォローアップの強化
初回スカウトへの未返信者に対して、2〜3週間後にフォローメッセージを送る
フォローの際は新しい情報(直近のリリース、チームの取り組みなど)を添える
「今すぐではなくても、情報交換だけでも」というトーンでカジュアル面談を提案する
スカウトメッセージの書き方の基本はエンジニア向けスカウトメールの書き方と返信率を上げる例文集で詳しく解説している。景気変動期のアレンジに活用してほしい。
面接・選考プロセスの景気変動期アジャスト
景気変動期には選考プロセス自体も見直す余地がある。
選考スピードを最優先にする
景気変動期に市場に出てきた優秀なエンジニアは、複数の企業から同時にアプローチを受けている。2026年時点で最も多い採用失敗の原因は「選考に時間がかかりすぎて候補者を逃す」ことだ。以下のスピード目標を設定しよう。
スカウト返信 → カジュアル面談:3営業日以内
カジュアル面談 → 一次面接:1週間以内
最終面接 → オファー提示:3営業日以内
全プロセス:最短2週間、最長でも3週間
面接回数を減らす
好況期に「4次面接まである」といった重厚な選考フローを運用していた企業は、景気変動期にこれを2〜3回に圧縮することを検討すべきだ。面接の回数を減らす代わりに、各面接の密度を上げる。たとえば、技術面接とカルチャーフィット面接を1回にまとめ、2名の面接官が同時に評価する「パネル面接」方式が効率的だ。
オンライン面接を活用する
景気変動期は「来社面接のみ」という制約が候補者のハードルになりやすい。特にレイオフされた直後の候補者は、複数社の選考を並行して進めていることが多い。オンラインでの面接を基本とし、最終面接だけオフィス訪問にするなど、候補者の負担を最小化する設計にしよう。
6. 不況期の採用ブランディング:「安定」と「成長」の両立
候補者が不況期に企業を選ぶ基準
景気変動期の候補者は、好況期とは異なる基準で企業を評価する。
好況期に重視される要素:
急成長している市場・プロダクト
高い報酬・ストックオプション
話題性のある技術やプロジェクト
景気変動期に重視される要素:
事業の収益基盤と安定性
雇用の安全性(レイオフのリスクが低いか)
長く働ける企業文化・チーム
技術的な成長機会の継続性
つまり、景気変動期の採用ブランディングでは**「安定性」と「成長機会」の両方を伝える**ことが鍵になる。
採用ブランディングのメッセージ設計
伝えるべきメッセージの構造:
事業の安定性:「当社は○○の収益基盤があり、景気変動の影響を受けにくい事業構造です」
成長投資の継続:「市場環境に関わらず、技術投資・人材投資を継続しています」
エンジニアへの投資:「書籍補助・カンファレンス支援・20%ルールなど、技術成長の支援制度があります」
働き方の柔軟性:「フルリモート・フレックス・副業OKなど、エンジニアが最も生産性高く働ける環境を整えています」
伝え方のチャネル:
採用ページに「なぜ今、採用を強化しているのか」を明記する
テックブログで直近の開発実績や技術的チャレンジを定期発信する
経営者やCTOがSNSで事業の方向性や技術投資方針を発信する
カジュアル面談で候補者の不安に丁寧に回答する
採用ページ・求人票の景気変動期向けチューニング
景気変動期には、求人票や採用ページの訴求ポイントも調整が必要だ。好況期と同じメッセージのまま放置していると、候補者の心理とズレが生じる。
見直すべきポイント:
「急成長」よりも「堅実な成長」を訴求する:「前年比300%成長!」というメッセージは好況期には魅力的だが、景気変動期には「無理をしていないか?」と不安に映ることがある。「安定した顧客基盤の上で着実に成長中」の方が響く
技術負債への取り組みを明記する:「レガシーコードのリファクタリングに投資している」「技術的な意思決定をエンジニア主導で行える」といった情報は、長く働ける環境かどうかを判断する材料になる
チームの規模と構成を具体的に書く:「エンジニア○名のチームで、バックエンド・フロントエンド・インフラを担当」のように、入社後の働き方がイメージできる情報を提供する
財務の安定性に触れる:直接的に「黒字です」と書かなくても、「自社サービスの売上で運営」「シリーズBで○億円調達済み、ランウェイ2年以上」といった情報を記載できると安心感が増す
追加すべきコンテンツ:
CTOや現場エンジニアのインタビュー記事(技術環境の実態が伝わる)
直近のリリース実績や技術的なチャレンジの紹介(事業が動いている証拠)
勤続年数やエンジニアの定着率のデータ(安定性の裏付け)
オフィス環境やリモートワークの実態(働き方の柔軟性)
「安定しているのに、なぜ採用しているのか?」への回答テンプレート
景気変動期に積極採用をしていると、候補者から「なぜこの時期に?」と聞かれることがある。この質問への回答を事前に準備しておくべきだ。
回答例:
「多くの企業が採用を控える中、当社が採用を続けている理由は3つあります。1つ目は、○○事業が引き続き成長しており、開発リソースが事業成長のボトルネックになっていること。2つ目は、景気後退期こそ優秀な方が市場に出てくるタイミングだと考えていること。3つ目は、景気回復後に一気にスケールするための基盤を今のうちに作りたいということです」
7. 景気回復に備えた採用パイプラインの構築
「今すぐ採用」と「将来の採用」を分離する
景気変動期の採用活動は、短期と中長期を明確に分けて設計することが重要だ。
短期(0〜6ヶ月):即戦力の確保
事業継続・成長に直結するポジションに絞って採用する
選考スピードを最速化し、市場に出てきた優秀層を逃さない
副業・業務委託での参画も選択肢に含める
中長期(6ヶ月〜2年):パイプラインの構築
タレントプールに候補者を蓄積し、定期的にナーチャリングする
技術イベントやコミュニティへの参加で認知を広げる
採用ブランディングのコンテンツを充実させる
インターンシップや新卒採用で次世代人材を確保する
タレントプール運用の実践手法
景気変動期こそタレントプールが真価を発揮する。以下の運用サイクルを回す。
1. 候補者の登録・分類
過去の応募者・選考辞退者をリスト化する
レイオフ企業の在籍者情報を収集する
カジュアル面談で「今ではないが将来的に転職を考えている」と言った候補者を登録する
2. 定期的な接点維持
月1回程度のメールマガジンで技術ブログや採用情報を配信する
自社開催の勉強会やイベントに招待する
新しいポジションがオープンしたら個別に連絡する
3. タイミングの見極め
候補者の所属企業の業績やニュースをウォッチする
スカウト媒体でのログイン頻度やプロフィール更新をチェックする
景気回復の兆しが見えたら、パイプラインの候補者に一斉にアプローチする
景気回復期への備え:採用体制のスケーラビリティ
景気が回復すると、採用需要が一気に高まる。この「反動」に備えた体制を整えておくことも、景気変動期にやるべきことだ。
採用プロセスの標準化:選考フロー・評価基準・面接ガイドを整備し、急な採用増にも対応できるようにする
面接官の育成:現場エンジニアの面接スキルをトレーニングし、面接のキャパシティを拡大しておく
採用管理ツールの導入:ATS(採用管理システム)を導入・整備し、候補者情報を一元管理できる状態にする
採用広報コンテンツの蓄積:テックブログ、会社紹介資料、採用ピッチデッキを充実させておく
副業・業務委託を「採用の入口」にする
景気変動期は、正社員採用に踏み切れないケースも多い。そんなときに有効なのが、副業・業務委託からの関係構築だ。
副業・業務委託活用のメリット:
固定費を抑えながら開発リソースを確保できる
実際の業務を通じてスキルやカルチャーフィットを見極められる
候補者にとっても「いきなり転職」ではないためリスクが低く、参加のハードルが下がる
景気回復時に正社員化のオファーを出しやすい(すでに関係性ができている)
運用のポイント:
契約期間は3〜6ヶ月で設定し、双方が合意すれば延長する形にする
週10〜20時間程度のコミットメントから始め、徐々に関与度を上げる
正社員化の可能性があることを最初から明示する(隠さない)
副業メンバーも社内Slackやスタンドアップに参加してもらい、チームの一員として扱う
契約終了時には丁寧にフィードバックし、タレントプールに登録する
トライハイヤーの契約設計についてはエンジニア採用のトライハイヤー戦略|業務委託→正社員で失敗を防ぐも合わせて確認してほしい。
景気変動期にこの「トライハイヤー」の仕組みを作っておけば、回復期に「すぐに正社員化できる候補者リスト」が手元にある状態になる。
8. 景気変動期のリテンション戦略
「攻め」と「守り」の両輪で動く
景気変動期の人材戦略は、採用(攻め)だけでなくリテンション(守り)も同時に強化する必要がある。
自社のエンジニアもまた、景気変動の影響で不安を感じている可能性がある。以下の施策で定着を強化する。
1. 経営状況の透明性を高める
業績や資金状況について、エンジニアチームにオープンに共有する
「レイオフの予定はない」と明言できるなら明言する
事業計画と採用計画の関係を説明し、エンジニアの仕事が事業にどう貢献しているかを可視化する
2. キャリア開発の機会を維持する
予算が厳しくても、学習支援制度や技術チャレンジの機会を維持する
新しい技術領域へのローテーションや社内プロジェクトで成長機会を作る
1on1の頻度を上げ、キャリアの不安に寄り添う
3. 報酬の見直しを先手で行う
市場相場の変動を踏まえ、主要メンバーの報酬が適正かを定期的にレビューする
年収だけでなく、働き方の柔軟性やタイトルの見直しも含めて検討する
競合からのオファーが来てから慌てるのではなく、先手で手を打つ
リテンション施策の体系的な設計についてはエンジニアの離職を防ぐ!定着率を高めるリテンション実践ガイドで解説している。
「カウンターオファー合戦」を避けるために
景気変動期は、競合企業も採用に苦戦している。そのため、優秀なエンジニアに対してカウンターオファー(引き留め)が発生しやすくなる。
カウンターオファー合戦に巻き込まれないためには、以下の対策が有効だ。
普段からエンゲージメントを高める施策を継続する:カウンターオファーが来る前に「この会社にいたい」と思ってもらう
内定承諾から入社までのプレボーディングを強化する:入社前辞退を防ぐために、定期的な接点を維持する
年収だけでは勝てない場合の代替価値を明確にする:技術的な裁量、チームの質、事業のインパクトなど、金銭以外の魅力で勝負する
エンジニアの不安を先回りで解消する社内コミュニケーション
景気変動期に社内のエンジニアが最も不安に感じるのは、「情報がない」ことだ。経営層が何も言わないと、エンジニアは最悪のシナリオを想像し始める。
定期的な全社ミーティングで共有すべき情報:
直近の業績と今後3〜6ヶ月の見通し
採用計画の方針(「採用を継続する」のか「一時的に絞る」のか)
コスト削減を行う場合、何を削り何を残すのかの優先順位
経営者としてこの景気変動をどう捉えているかの所見
やりがちだが逆効果なこと:
「大丈夫です、何も心配いりません」とだけ言って具体的な情報を出さない
経費削減を始めながら「採用は積極的に続けます」と矛盾するメッセージを出す
レイオフの可能性がゼロではないのに「絶対にない」と言い切る
エンジニアはロジカルな人が多い。「正直な情報共有 + 合理的な説明」があれば、多少のネガティブ情報にも冷静に対応できる。むしろ、情報を隠す方が不信感を生み、離職につながる。
FAQ(よくある質問)
Q1. 景気後退期にエンジニア採用を止めるのはNG?
完全に止めることにはリスクがある。採用を止めると、パイプラインの枯渇・採用ノウハウの散逸・ブランド認知の低下が起こり、景気回復時に再開するコストが大きい。予算が限られていても、タレントプールへの種まきやリファラルの強化など、低コストで継続できる施策は維持すべきだ。
Q2. レイオフされたエンジニアは「問題がある人」ではないのか?
レイオフは個人の能力とは無関係に起こることがほとんどだ。特にグローバルテック企業のレイオフは、事業再編や株主対策として部門ごと削減されるケースが多い。むしろ、大規模プロジェクトの経験やグローバルな開発プロセスの知見を持つ優秀な人材が含まれている。選考では、レイオフの事実ではなくスキル・経験・カルチャーフィットで判断すること。
Q3. 景気変動期の採用で年収を下げても大丈夫?
基本的には相場を下回る年収での採用は避けるべきだ。「足元を見られた」と感じた候補者は、景気回復時にすぐ転職してしまう。報酬を抑えたい場合は、年収そのものを下げるのではなく、サインオンボーナスやSO、副業許可など総報酬パッケージで工夫する。
Q4. 不況期の採用で最もROIが高いチャネルは?
一般的にはリファラル採用だ。紹介インセンティブを含めても人材紹介手数料の1/3〜1/5程度で済み、カルチャーフィットも担保されやすい。次いで、タレントプールからの再アプローチが費用対効果に優れている。いずれも好況期から仕込んでおく必要がある。
Q5. 景気後退がいつ終わるかわからない中で、どこまで採用投資をすべき?
キャッシュランウェイを基準に判断するのが原則だ。18ヶ月以上の運転資金がある場合は、採用投資を継続しても問題ない。12ヶ月未満の場合は、直接的に売上に貢献するポジションに絞る。また、3ヶ月ごとに採用計画を見直し、市場環境の変化に応じて柔軟に調整する仕組みをつくることが重要だ。
Q6. 景気変動期に副業・業務委託でエンジニアを確保するのはアリ?
非常に有効だ。正社員採用に慎重な時期でも、副業・業務委託なら固定費の増加を抑えつつ開発リソースを確保できる。さらに、副業から正社員へのトライハイヤー(業務委託→正社員転換)は、ミスマッチのリスクを抑えた採用手法として景気変動期に適している。
Q7. 景気変動期に新卒採用は維持すべきか?
中長期の組織づくりを考えるなら維持すべきだ。新卒エンジニアの育成には時間がかかるが、景気変動期に採用した世代は「会社が苦しい時期に入ってくれた仲間」としてエンゲージメントが高くなる傾向がある。また、新卒採用を止めると年次構成にギャップが生まれ、数年後に組織のバランスが崩れるリスクがある。
Q8. 景気変動期にCTO・テックリードなどハイレイヤーの採用を狙うべきか?
景気変動期はハイレイヤー人材を採用する絶好のタイミングだ。好況期にはCTOやテックリードクラスの人材はほぼ転職市場に出てこない。しかし景気変動期には、所属企業の事業縮小や組織再編をきっかけに動き出すことがある。特にシリーズA〜Bのスタートアップにとっては、普段は手が届かないレベルの技術リーダーにアプローチできる貴重な機会だ。ただし、ハイレイヤー人材の採用は選考が長引きやすいため、意思決定者(CEO・ボードメンバー)が直接面談に入り、スピーディに進めることが重要になる。
Q9. 景気変動期に採用チームの人員を減らしてもよいか?
採用チームの人員削減は慎重に判断すべきだ。採用担当者が持つ候補者との関係性、媒体運用のノウハウ、面接調整のスキルは属人的で、一度失うと再構築に半年以上かかる。採用ポジションを絞る場合でも、採用チームのコア人材は維持し、空いた工数を採用ブランディングやタレントプール構築、選考プロセスの改善に振り向ける方が中長期的なROIは高い。
Q10. 採用代行(RPO)は景気変動期に活用すべきか?
採用代行は景気変動期に有効な選択肢だ。自社の採用チームを増員せずに、スカウト運用やスクリーニングの実行力を確保できる。特に、採用ポジションが一時的に増減する景気変動期には、固定の人件費を増やさずに外部リソースで柔軟にスケールできるメリットがある。ただし、採用代行を選ぶ際は「エンジニア採用の実績」と「スカウト運用の知見」を持つパートナーを選ぶことが重要だ。
まとめ:景気変動期の採用は「未来への先行投資」
景気後退期のエンジニア採用は、たしかにリスクを伴う。しかし、リスクを取らないことが最大のリスクでもある。
多くの企業が採用を止める中で動ける企業は、以下の3つのアドバンテージを手にする。
採用競争の緩和:競合が減ることで、普段は採れない層にアプローチできる
コストの最適化:好況期と比べて採用単価が下がる可能性がある
組織の先行構築:景気回復時にすぐスケールできる体制が整う
もちろん、闇雲に採用を続けるのではなく、自社の資金状況と事業フェーズに応じた判断が必要だ。本記事で紹介した判断フレームワークやチャネル戦略を参考に、**「今だからこそできる採用」**を実行してほしい。
景気変動期の採用チェックリスト:
自社のキャッシュランウェイと事業フェーズを確認し、攻め/守りの方針を決めたか
全オープンポジションの優先度を再評価し、事業インパクトの高い順に並べ替えたか
採用チャネルのROIを見直し、低コスト×高効果のチャネルに予算を集中させたか
スカウトメッセージを景気変動期向けにチューニングしたか(安定性・裁量・成長機会の訴求)
求人票・採用ページを更新し、候補者の不安に先回りする情報を掲載したか
タレントプールを整備し、過去の候補者への再アプローチを計画したか
リファラル採用のインセンティブを見直し、社内へのリマインドを行ったか
副業・業務委託からの採用パイプラインを構築したか
既存メンバーのリテンション施策を強化し、報酬レビューを実施したか
経営状況を社内に透明に共有し、エンジニアの不安を解消する仕組みを作ったか
エンジニア採用でお困りでしたら、ぜひtechcellarにご相談ください。景気変動期のスカウト運用やタレントプール構築など、少人数チームでも実行できる採用戦略をご提案します。
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