updated_at: 2026/4/12
エンジニア採用のための副業・兼業制度設計ガイド|2026年法改正対応
副業制度の設計から運用・2026年法改正対応まで、エンジニア採用力を高める実践ノウハウを徹底解説
TL;DR(この記事の要約)
副業容認はエンジニア採用の強力な差別化要因。約7割のITエンジニアが副業に関心を持っている
2026年の労働基準法改正で副業時の労働時間管理が簡素化され、企業の導入ハードルが大幅に下がる
制度設計では「許可基準」「申請フロー」「情報管理」「評価への影響」の4要素を明確にする
副業を認めることで離職防止・スキル向上・採用ブランディングの三重効果が得られる
段階的に導入し、3〜6ヶ月で効果検証→制度改善のサイクルを回すのが成功パターン
このページでわかること
エンジニア採用において副業制度がなぜ「武器」になるのか
2026年労働基準法改正のポイントと企業への影響
副業制度の具体的な設計方法(許可基準・申請フロー・就業規則の改定)
導入後の運用ノウハウと効果測定の方法
副業制度を採用活動に活かすための具体施策
1. なぜ副業制度がエンジニア採用の差別化要因になるのか
エンジニアの副業意向は高止まりしている
ITエンジニアの副業への関心は年々高まっている。レバテックの調査によれば、ITエンジニア・クリエイターの約7割が副業に関心を持っているとされる。
この背景には以下の要因がある。
スキルの陳腐化への危機感: 自社プロダクトだけでは触れられない技術領域への挑戦欲求
収入源の分散: 一社依存のリスクヘッジ意識の高まり
自律的キャリア志向: 会社に依存しないキャリア構築を目指すエンジニアの増加
リモートワーク普及: 通勤時間削減で副業に充てられる時間が生まれた
「副業OK」が転職先選定の重要条件に
エンジニアが転職先を検討する際、「副業が許可されているか」は給与・リモートワーク可否に次ぐ重要項目になりつつある。
特に以下のような優秀層ほど副業を重視する傾向が強い。
OSSコントリビューターや個人開発を行うエンジニア
技術書の執筆やカンファレンス登壇を行うエンジニア
将来の起業や独立を視野に入れているエンジニア
つまり、副業を禁止している時点で採用候補者から選択肢に入らないという事態が発生しうる。副業人材の活用については副業・業務委託エンジニアの採用戦略ガイドも参考にしてほしい。
副業禁止の企業が失っているもの
副業禁止は「優秀な人材が応募しない」だけではない。以下のような機会損失も生じている。
社員が外部で得たスキル・知見が自社に還元されない
社員のエンゲージメント低下(自由度の低さへの不満)
退職理由として「副業ができない」が挙がるケースの増加
採用ブランディング上の弱点(「古い体質」と見られるリスク)
2. 2026年労働基準法改正と副業制度への影響
改正のポイント:労働時間の通算ルール見直し
2026年に検討されている労働基準法の改正では、副業における労働時間管理のルールが大きく変わる方向性が示されている。
従来のルール(現行法)では、副業先での労働時間を本業企業と通算し、法定労働時間を超えた場合は割増賃金が発生するという仕組みだった。これが企業にとって大きな導入障壁になっていた。
改正の方向性としては以下が議論されている。
各社ごとの労働時間管理: 自社で働いた時間のみで判断する方式への移行
割増賃金の通算義務の見直し: 「どちらの会社が割増賃金を払うか」の混乱解消
健康管理義務の明確化: 企業が把握すべき情報範囲の整理
企業にとっての実務的インパクト
この改正が実現すれば、企業の副業容認ハードルは劇的に下がる。
項目 | 現行制度 | 改正後(検討中) |
労働時間管理 | 副業先と通算が必要 | 自社分のみ管理 |
割増賃金 | 通算で法定超の場合発生 | 各社で独立判断 |
管理コスト | 高い(副業先との調整要) | 低い(自社完結) |
健康管理 | 副業先の労働時間も把握すべき | 自己申告ベースに簡素化 |
注意: この改正はまだ検討段階であり、最終的な法改正内容は確定していない。最新の動向は厚生労働省の発表を確認されたい。
今のうちに企業がやるべき準備
法改正を待たずとも、以下の準備は進めておくべきだ。
現行の就業規則における副業条項の確認と見直し案の作成
社内の副業ニーズの把握(アンケート・1on1での確認)
競業避止・秘密保持に関するルールの整備
副業申請フローの素案作成
3. 副業制度の設計:4つのコア要素
要素1:許可基準の設定
副業をどこまで認めるかの基準を明確にする。許可制と届出制の2パターンがある。
許可制(推奨)
事前に申請し、会社が許可する方式
競業避止や利益相反のチェックが可能
多くの企業が採用している標準的な方式
届出制
事後報告で済む方式
エンジニアにとっての自由度が高い
先進的な企業で採用されている
許可基準の具体例:
以下のいずれかに該当する場合は不許可とする、というネガティブリスト方式が運用しやすい。
競合他社での業務(自社と同一市場でのサービス開発等)
自社の秘密情報を利用する業務
本業の業務時間中に行う副業
心身の健康に重大な支障をきたすおそれがある場合
自社の信用・名誉を毀損するおそれがある場合
要素2:申請フローの設計
エンジニアにとって面倒すぎない、かつ管理上必要十分な申請フローを設計する。
推奨フロー:
社員がフォーム(Google Formやslack bot等)で申請
記載項目:副業先の業種、業務内容の概要、想定稼働時間/週、契約形態
上長(EM/VPoE)が確認・承認
人事が最終チェック(競業避止・法的観点)
承認通知 → 6ヶ月ごとの更新申請
注意点:
申請から承認まで5営業日以内を目標にする(遅いと形骸化する)
副業先の詳細(社名等)を必須にするかは判断が分かれる。業種と業務内容で判断できるなら社名不要とする企業も多い
更新時に「本業への影響の有無」を自己申告してもらう
要素3:情報管理・秘密保持のルール
副業制度で最も重要なのが情報管理だ。特にエンジニアは技術的な知見そのものが機密情報になりうる。
明確にすべき事項:
自社のソースコード・アーキテクチャ情報の持ち出し禁止
自社のプロダクトロードマップ・戦略情報の漏洩防止
副業で得た第三者の機密情報を自社に持ち込まない
副業先の成果物のIP(知的財産権)帰属の明確化
実務上の対策:
副業開始時に秘密保持に関する誓約書を取得する
自社端末を副業に使わない(BYODポリシーの整備)
副業先のNDAと自社のNDAが矛盾しないことを確認する
要素4:評価・キャリアへの影響ルール
副業が社内評価に影響しないことを明文化する。これがないとエンジニアは安心して副業できない。
推奨ルール:
副業の有無は人事評価に影響しないことを明記
本業のパフォーマンスのみで評価する原則を貫く
ただし、副業で得たスキルを本業に活かした場合はプラス評価の対象とする
副業が原因で本業のパフォーマンスが低下した場合は、通常のパフォーマンス管理フローで対応する
4. 副業制度を「採用の武器」に変える具体施策
求人票・採用ページでの打ち出し方
副業制度を作っただけでは採用力は上がらない。適切に候補者に伝える必要がある。
求人票での記載例:
「副業OK(許可制):技術書執筆、OSS活動、個人開発、他社での技術顧問など幅広く認めています」
「副業実績:エンジニアの約XX%が副業を行っています」
採用ページ・テックブログでの発信:
副業をしている社員のインタビュー記事
「副業で得た知見を本業にどう活かしているか」のケーススタディ
副業制度の設計思想・ポリシーを公開する透明性の演出
カジュアル面談・面接での伝え方
面接の場で副業制度について聞かれた際の回答を統一しておく。
伝えるべきポイント:
制度の具体的な内容(許可制 or 届出制、申請方法)
実際に副業している社員の割合
どんな副業が多いか(技術顧問、個人開発、OSS、教育系など)
「うちは副業を応援している」というスタンスの明示
スカウトメールでのアピール
ダイレクトスカウトでは、候補者のプロフィールから副業志向を読み取り、訴求に活用する。
副業志向が高い候補者のシグナル:
GitHubで個人プロジェクトをアクティブに開発している
技術ブログを頻繁に更新している
カンファレンスに登壇している
プロフィールに「副業可能」「複業中」の記載がある
こうした候補者には「副業を応援する文化がある」ことをスカウト文面で明記すると返信率が上がりやすい。
5. 副業制度の運用とよくあるトラブル対策
ケース1:副業が本業に影響している場合
兆候:
勤務時間中の集中力低下、会議での反応の鈍さ
締め切りの遅延が増える
チームメンバーからのフィードバック
対応方法:
まず1on1で状況を確認する(副業が原因か決めつけない)
本業のパフォーマンス基準を再確認する
副業の稼働時間削減を「相談」として持ちかける
改善が見られない場合は副業許可の見直しを検討する
重要なのは「副業しているから問題」ではなく「パフォーマンスが基準を下回っている」という事実ベースで対話すること。
ケース2:競合他社への関与が疑われる場合
申請時に「業種・業務内容」で競合チェックを行う
グレーゾーンの場合は法務・上長・人事の三者で協議する
判断基準を事前にFAQとして社内公開しておく
ケース3:副業先での成果物と自社IPの競合
就業規則で「勤務時間外に作成したものは社員に帰属する」と明記する
ただし、自社の業務で得た知見・情報を基にした成果物は除外する
曖昧なケースは事前に相談するフローを設ける
ケース4:チーム内での不公平感
副業をしていない社員から「副業組は楽をしている」という不満が出ることがある。
対策:
副業制度は全員に開かれた制度であることを周知する
本業の評価基準は全員同一であることを明確にする
副業で得た知見のチーム内共有を奨励する(LT会等)
6. 導入ロードマップ:3ステップで始める副業制度
ステップ1:調査・設計フェーズ(1〜2ヶ月目)
社内の副業ニーズ調査(匿名アンケート)
競合他社の副業制度リサーチ
法務・労務面のリスク洗い出し
就業規則の改定案作成
申請フロー・ツールの選定
ステップ2:パイロット導入フェーズ(3〜4ヶ月目)
まずエンジニアチームに限定して導入する(スモールスタート)
5〜10名程度のパイロットグループで運用テスト
申請〜承認フローの検証と改善
副業開始者への定期的な1on1(月1回)
ステップ3:本格運用・拡大フェーズ(5〜6ヶ月目以降)
パイロットの結果をもとに制度を修正
全社への制度展開
採用ページ・求人票への副業制度の掲載
効果測定の開始(後述のKPIを設定)
効果測定のKPI
指標 | 測定方法 | 目標例 |
副業申請率 | 申請数 / 全エンジニア数 | 20%以上 |
採用応募数の変化 | 制度導入前後の比較 | 15%増 |
面接での副業質問率 | 面接フィードバックから集計 | 把握のみ |
離職率の変化 | 制度導入前後の比較 | 低下傾向 |
eNPS(従業員推奨度) | 定期サーベイ | 向上傾向 |
7. 副業制度設計で参考にすべき法的フレームワーク
厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
厚生労働省は2018年にモデル就業規則を改定し、副業・兼業を原則容認する方向性を示した。2022年にはガイドラインを改定し、企業に対して副業・兼業を認める方向での検討を促している。
ガイドラインの主要ポイント:
原則として副業・兼業を認める方向で検討すべき
禁止・制限が許容されるのは以下のケースに限られる
労務提供上の支障がある場合
業務上の秘密が漏洩する場合
競業により自社の利益が害される場合
自社の名誉・信用を損なう場合
競業避止義務の適切な設定
エンジニアの場合、「競業」の範囲が広くなりがちなので注意が必要だ。
NG例(範囲が広すぎる):
「IT業界の全企業での副業禁止」
「ソフトウェア開発に関わる一切の副業禁止」
推奨例(合理的な範囲):
「自社と同一のターゲット市場で、同種のプロダクトを開発する企業での副業」
「自社の直接的な競合企業(リスト明示)での技術開発業務」
範囲を限定し、かつ具体的に示すことで、エンジニアが萎縮しない制度にできる。
エンジニア採用における法務知識の全体像はエンジニア採用の法務知識ガイドで詳しく解説している。
秘密保持と発明の帰属
職務発明制度: 勤務時間中に自社のリソースを使って生まれた発明は会社に帰属する(特許法35条)
副業時間中の発明: 自社のリソースを使っていなければ、原則として社員個人に帰属する
グレーゾーン: 自社の業務で得た着想を副業で形にした場合 → 事前相談フローで対応
8. 副業制度を持つ企業の採用成功パターン
パターン1:OSS活動を全面支援する企業
業務時間の一定割合(10〜20%)をOSS活動に充てることを認める
OSSへのコントリビューションを評価に反映する仕組みを持つ
結果:OSSコミュニティ経由の自然応募が増加する
パターン2:技術顧問の受け入れ・送り出しを双方向で行う企業
自社のシニアエンジニアが他社の技術顧問を務めることを推奨
外部から技術顧問を受け入れることで社内に新たな知見を取り入れる
結果:技術顧問ネットワーク経由でのリファラル採用が活性化する
パターン3:副業からの正社員転換を推進する企業
自社の副業ポジションに外部エンジニアを受け入れる
相互理解が深まった段階で正社員オファーを出す
結果:カルチャーフィットの精度が高く、入社後の定着率が高い
FAQ(よくある質問)
Q1. 副業制度を導入すると社員が転職してしまうのでは?
逆のデータが出ている。副業を認めている企業のほうが離職率が低いという調査結果がある。副業で満たされる「成長欲求」や「新しい挑戦への欲求」を社外で満たせることで、本業への満足度が維持されるためだ。「副業禁止→不満蓄積→転職」という流れのほうがリスクが高い。離職防止の包括的な取り組みについてはエンジニアの定着率を高める���テンション戦略も参照されたい。
Q2. スタートアップでも副業制度は導入すべき?
むしろスタートアップこそ導入すべきだ。大企業と比較して給与水準で劣ることが多いスタートアップにとって、「副業で収入を補填できる」「自由度が高い」という点は大きな差別化要因になる。制度設計もシンプルでよく、「届出制+競業避止の最低限のルール」だけでスタートできる。
Q3. 副業の稼働時間に上限を設けるべき?
一般的には「本業に支障をきたさない範囲」という定性的な基準が多いが、目安として「週10〜15時間以内」を推奨する企業もある。ただし、時間制限を厳しくしすぎると形骸化するため、パフォーマンスベースで管理するほうが実効性が高い。
Q4. 副業先が競合かどうかの判断が難しい場合は?
あらかじめ「競合企業リスト」を作成し、申請時にチェックする仕組みが有効。リストにない企業でも業務内容が競合する場合は、法務・上長・人事の三者で個別判断する。判断に迷うケースは「申請者の業務内容」と「自社のコア技術・事業」の重なり度合いで判定する。
Q5. エンジニア以外の職種にも副業制度を広げるべき?
段階的に広げるのが現実的だ。まずエンジニアチームでパイロット導入し、運用ノウハウを蓄積してから他部署に展開する。エンジニアは副業との親和性が高く(リモートで完結する案件が多い)、かつ採用競争が激しいため、優先的に対象とする合理性がある。
Q6. 副業制度の導入にはどれくらいのコストがかかる?
制度設計自体のコストは低い(就業規則改定の社労士費用程度)。運用コストも、申請管理をGoogleフォーム+スプレッドシートで行えば追加費用はほぼゼロ。大規模な企業であれば専用ツール(SmartHR等)の活用を検討する。コスト以上に「制度を作る覚悟と意思決定」のほうが重要だ。
Q7. 副業で得たスキルを本業に還元してもらうにはどうすればよい?
強制はしないが、自然に共有される仕組みを作る。月1回のLT(ライトニングトーク)会で副業での学びを共有する場を設ける、副業で触れた技術を社内の技術選定で参考にする等。「副業の知見共有 → チームへの貢献 → 本人の評価向上」という好循環を設計する。
まとめ:副業制度はエンジニア採用の「静かな競争優位」
副業制度は、導入するだけで劇的に応募が増えるような派手な施策ではない。しかし、「あの会社は副業OK」という評判が蓄積されることで、長期的に採用チャネルの流入量と質が向上する。
特に2026年の労働基準法改正により、企業側の導入ハードルが下がることが見込まれる今は、先行して制度を整備し、運用実績を積み上げるチャンスだ。
次のアクション:
まず自社の就業規則で副業に関する条項を確認する
エンジニアチームに副業ニーズのヒアリングを行う
パイロット導入の計画を立てる(3ヶ月後の本格導入を目標に)
副業制度の設計・運用でお困りの方は、techcellarの採用戦略コンサルティングにお気軽にご相談ください。エンジニア採用に特化した制度設計のご支援が可能です。