公開: 2026/6/2
エンジニア採用CX(候補者体験)のNPS測定と改善ガイド
採用CXをNPSで数値化しPDCAを回す。エンジニア採用に特化した計測設計と改善実践ガイド
エンジニア採用CX(候補者体験)のNPS測定と改善ガイド
エンジニア採用の候補者体験(CX)は、内定承諾率・口コミ評判・リファラル紹介の全てに直結する。NPS(ネット・プロモーター・スコア)を採用プロセスに組み込み、数値でCXを可視化することで、感覚に頼らない改善サイクルが動き出す。
このページでわかること
採用NPSとは何か、なぜエンジニア採用で特に重要なのか
採用プロセスの各フェーズでNPSを計測する設計方法
回収したフィードバックを改善アクションに落とし込む方法
小規模スタートアップでも無理なく始められる実装ステップ
採用CX改善によって起きる実際の変化(承諾率・口コミ・リファラル)
TL;DR(要点まとめ)
採用NPSは「この会社の選考を知人に勧めるか?」で測る。9〜10点が推奨者、7〜8点が中立者、6点以下が批判者で、推奨者割合から批判者割合を引いた値がNPS
計測タイミングは3点が基本。スカウト・書類選考後、面接後(不合格者含む)、内定提示後の3タイミングが最低限
エンジニア候補者は「雑な対応」に敏感。レスポンス速度・面接官の技術理解・フィードバックの質の3要素がNPSに直結する
批判者のコメントから改善ネタを拾う。定量スコアより定性コメントのほうが施策に直結しやすい
計測結果を社内公開して採用文化を変える。NPSを経営指標として扱うことで、面接官の当事者意識が変わる
1. 採用CXとNPSの基礎知識|なぜエンジニア採用で必須なのか
採用候補者体験(Candidate Experience、以下CX)とは、候補者がスカウトや求人に出会った瞬間から、内定承諾または辞退という意思決定をするまでの間に経験するすべての接触点のことだ。書類選考通過の連絡スピード、面接官の温度感、不採用通知の丁寧さ、どれひとつとっても候補者はその企業への評価を更新し続けている。
NPS(Net Promoter Score)は本来顧客体験を測る指標だが、採用プロセスへの応用は2010年代後半から欧米で先行し、2020年代に日本の先進的な採用チームにも広がってきた。「この会社の採用プロセスを、友人・知人エンジニアにどれほど勧めたいか?0〜10点で答えてください」という一問で、推奨意欲を数値化する。
採用NPSと一般的な顧客NPSの違い
採用NPSは顧客NPSと同じ計算式を使うが、いくつかの点で運用方法が異なる。顧客NPSでは「推薦するか」という質問に対して、過去の購買体験・サービス体験をベースに回答する。採用NPSでは「選考プロセスを推薦するか」という質問に対して、実際に体験した採用プロセス全体が評価対象になる。
特に注意すべき点は、採用NPSの回答者には「内定を断った人」「不採用になった人」も含まれるという点だ。顧客NPSでは満足度の高い顧客ほど回答しやすいバイアスがあるが、採用NPSでは不満を抱えた候補者のほうが積極的に回答するケースも多い。そのため、採用NPSのスコアは顧客NPSより低めになる傾向があり、スタートアップのベンチマークも顧客NPSより低く設定するのが妥当だ。
なぜエンジニア採用でCX計測が特に重要か
エンジニアのコミュニティは濃い。Xのエンジニア界隈、Zennのコメント欄、勉強会での雑談——「あの会社の選考ひどかった」「面接官が技術わかってなくて話にならなかった」という評判は、エンジニアのネットワーク上をあっという間に広がる。一方、「あの会社の選考は丁寧で学びがあった」という好評も同様に拡散し、リファラル紹介や口コミ応募を生む。
経済産業省の試算では、2030年時点でIT人材は最大79万人不足するとされている(経済産業省『DX白書2023』)。売り手市場が続くなかで、採用CXの差は直接的な採用競争力の差になる。
エンジニア採用CXをNPSで管理する3つのメリット:
感覚論を排して優先課題を特定できる: 「面接官の評判が悪い気がする」という曖昧な認識を「面接フェーズのNPSが全フェーズ中最低でスコアが-15」というデータに変換できる
改善前後の効果を定量検証できる: スカウト文面を改善した翌月のスカウト後NPSを比較すれば、施策の効果が数字で見える
採用に関わる社内メンバーを動かせる: NPSスコアを経営会議で共有することで、面接官を務めるエンジニアや経営層の行動変容を促しやすい
2. 採用NPSの設計|計測タイミングと質問設計
計測すべき3つのタイミング
採用プロセスの全体を通じてCXを把握するために、最低でも以下の3タイミングでNPSを回収する。
スカウト・書類選考後(通過・不通過の両方)
スカウト送信後、一次返信(メッセージ受領)したタイミングで計測
書類選考不通過の場合も、通知と同時にフォームを送る
目的: スカウト文面の質、返信スピード、JD(求人票)の訴求力を測る
面接フェーズ後(各面接終了後、不合格者含む)
一次面接・二次面接それぞれ終了後に計測
不合格者にも送ることが重要。採用しない候補者の体験がリファラルや口コミに直結する
目的: 面接官の印象、質問の質、フィードバックの有無を測る
内定提示・承諾後(入社直前)
内定承諾または辞退の意思表示直後に計測
辞退者のNPSは辞退原因の分析に直結する
目的: オファー条件・クロージングコミュニケーション・競合他社比較を測る
質問設計のポイント
メインのNPS質問(0〜10点スコア)に加えて、必ず以下のオープン質問を設ける。
推奨設問例(日本語):
「この会社の採用プロセスを、エンジニアの友人・知人に勧めるとしたら何点ですか?(0〜10点)」
「その点数をつけた最大の理由を教えてください(自由記述)」
「改善してほしいと感じた点があれば教えてください(自由記述、任意)」
設計上の禁止事項:
15問以上の設問を並べない(離脱率が跳ね上がる)
採用担当者名を明示したアンケートを使わない(忖度が入る)
記名式にしない(匿名性が回答の正直さに影響する)
計測フォームのツール比較
採用NPSの計測フォームは用途と予算に応じて選択する。
ツール | 費用 | 特徴 | 推奨シーン |
Googleフォーム | 無料 | 匿名設定可、スプレッドシート連携 | 月回答30件以下・予算ゼロの立ち上げ期 |
Typeform | 月額有料 | 回答体験がよくUI洗練・離脱率低い | 月回答30件以上・候補者体験にこだわる場合 |
Delighted | 月額有料 | NPS専用SaaS・自動集計・ダッシュボード | 月回答100件超・分析に時間をかけたくない場合 |
ATS内蔵機能 | ATSに依存 | 選考データと連動・二重管理不要 | すでにHERPやWorkableなどを利用している場合 |
立ち上げ期はGoogleフォーム一択で構わない。コストゼロで運用でき、Googleスプレッドシートに自動記録されるため分析も容易だ。
回答率を上げるコツ
採用コンサル営業の現場でアンケート設計を支援してきた経験から言うと、フォームURLをメール本文に直接貼るか、Googleフォームの埋め込みリンクで「30秒で回答できます」と明示するだけで回答率が大幅に変わる。目標回答率はフェーズ別に異なるが、面接後は40〜60%が現実的な目標ラインだ。
回答率を上げる5つのテクニック:
アンケート送付メールの件名を「採用プロセスのフィードバックをお願いします(30秒)」のようにシンプルかつ所要時間を明示する
フォームの最初のページに「回答は完全匿名です」と明記する
質問は最大3問に絞る(スコア1問・理由1問・改善点1問)
面接翌日の午前中に送付する(時間が空くほど回答意欲が下がる)
回答してくれた候補者には翌営業日以内に「フィードバックありがとうございました」の一言を添える(次回以降の回答率が上がる)
3. スコアの読み方と改善ポイントの特定方法
NPSスコアの解釈
スコアの計算式は次の通りだ。
NPS = 推奨者(9〜10点)の割合 - 批判者(0〜6点)の割合
たとえば、回答者20人のうち推奨者8人(40%)・批判者6人(30%)なら、NPS = 40 - 30 = +10となる。
採用NPSは業種・規模によって基準が異なるが、スタートアップの場合は以下を目安にするとよい。
スコア帯 | 評価 | 解釈 |
+30以上 | 優良 | 候補者体験が強力な採用ブランドになっている |
+10〜+29 | 良好 | 基本的な候補者体験は整っているが改善余地あり |
-10〜+9 | 要改善 | 批判者と推奨者が拮抗。具体的な問題箇所の特定が急務 |
-10未満 | 危険水域 | 口コミで採用ブランドが毀損されるリスクが高い |
定性コメントの分析方法
NPSスコアの数字だけを追っていても改善策は出てこない。実際のアクションにつながるのは、自由記述のコメントだ。スタートアップの採用チームが月に回収できる回答は数十件規模になることが多いため、手動でのテキスト分析でも十分機能する。
コメントの分類テンプレート(5カテゴリ):
スピード・レスポンス系: 「返信が遅い」「日程調整に時間がかかった」など
面接官・コミュニケーション系: 「面接官が技術をわかっていなかった」「評価軸が不明瞭だった」など
情報提供・透明性系: 「次のステップが明示されなかった」「条件の説明が不十分だった」など
技術的尊重系: 「技術的な議論ができて刺激的だった」「コードレビューの観点が参考になった」など
その他(環境・カルチャー): 「オフィスの雰囲気が想像と違った」「チームの雰囲気が伝わってよかった」など
批判者のコメントは特にカテゴリ1〜3に集中しやすい。月次で集計し、最も多いカテゴリが当月の改善優先領域になる。
4. フェーズ別の改善アクション
フェーズ1: スカウト・書類選考後のNPSが低い場合
スカウト後のNPSが低い場合、原因は大きく3つに分かれる。
スカウト文面がコピペで個別感がない: 採用支援の実務で見ると、返信率が低いスカウトの90%以上は「御社のご経歴を拝見し」から始まる定型文だ。候補者のGitHubのコントリビュート状況や、Qiitaの記事テーマを一文引用するだけでスカウト後NPSは大きく変わる
書類選考の結果連絡が遅い: 一般的に、書類選考の結果連絡は5営業日以内が候補者の心理的な基準ラインとされている。7日を超えると「雑に扱われた」と感じる候補者が増える
求人票(JD)の情報密度が低い: 「採用後の具体的な業務内容」「使用技術スタック」「チーム構成」の3点が欠けているJDは、面接に進む前から不満の種を蒔いている
改善チェックリスト(スカウト・書類選考フェーズ):
スカウト文に候補者固有の言及(技術・活動・実績)が含まれているか
書類選考結果を5営業日以内に返信しているか
不通過者への通知文が「一次選考の結果、今回は見送り」以上の情報を含んでいるか
JDに技術スタック・チーム規模・入社後の具体的なミッションが明示されているか
スカウトの件名にポジション名・魅力的な一語が含まれているか
フェーズ2: 面接後NPSが低い場合
面接フェーズは採用CXの中で最もNPSへの影響が大きく、かつ改善が最も難しいフェーズだ。エンジニア候補者が面接で抱く不満のトップは、スカウト運用代行の現場でヒアリングしてきた経験から次の3点に集約される。
エンジニア候補者が面接で感じる不満ベスト3:
面接官が技術を理解していない(非エンジニア面接官問題): 人事担当者だけで面接を行い、技術的な質問に答えられない・深掘りできないケースが多い
評価フィードバックがゼロ: 「また連絡します」だけで終わり、候補者が自分の評価を何も知れない
面接官が一方的に話す: 候補者の話を聞くより、自社の説明に終始する面接は候補者体験が最悪になる
改善アクション(面接フェーズ):
面接に必ず技術を理解しているエンジニアを1名同席させる(理想は職種が近い人)
面接後に「今日の評価結果は○日までに連絡します」と期日を明示する習慣をつける
面接官トレーニングに「候補者の話を聞く時間を50%以上確保する」というルールを追加する
合否にかかわらず、候補者の強みを1点以上フィードバックとして伝える
フェーズ3: 内定後NPSが低い場合
内定承諾後NPSが低い場合は、選考を乗り越えてきた候補者が最後の段階で離脱しているサインだ。内定辞退者のNPSコメントを分析すると、以下のパターンが多い。
「内定提示後のフォローが他社より薄かった」
「入社前に具体的な業務内容や配属先が確認できなかった」
「他社との比較で条件面での魅力が伝えきれなかった」
内定後のCX改善は、エンジニア採用のプレボーディング設計とエンジニア採用のオファー面談完全ガイドで詳しく解説しているため、本記事では割愛する。
5. 採用CXとエンジニアコミュニティ評判管理|口コミサイトとの連動
採用NPSは社内の数値であり、外部には見えない。しかし、採用CXの良し悪しは最終的にOpenWorkやGlassdoor、Twitterのエンジニア界隈という「外部の声」として表れる。NPSを高める施策は、口コミサイトのスコア改善にも直結するため、両者を連動させて管理する視点が重要だ。
エンジニアが「採用体験を書く」理由
OpenWorkやGlassdoorへの口コミは、選考段階の体験に言及するケースが多い。「面接を受けたが、対応が雑だったので辞退した」「不採用でも丁寧にフィードバックをもらえた」——これらのコメントは入社した社員だけでなく、選考を経験した候補者からも投稿される。
エンジニアが採用体験を口コミサイトに書く主なきっかけは次の3つだ。
著しく悪かった体験を共有したい: 面接官が傲慢だった、返信が1週間以上なかった、不採用通知すら来なかったなど、怒りや失望が口コミを書く動機になる
良かった体験を次の候補者に伝えたい: 技術的な議論が刺激的だった、フィードバックが具体的だったという体験は、エンジニア同士のコミュニティ内で共有したいという動機につながる
転職活動の記録として残す: ブログやSNSで転職活動記録を公開するエンジニアは多く、選考体験の詳細が記事化されることがある
NPSが高い企業は、口コミサイトでも自然とポジティブな言及が増えやすい。逆に、NPSが低い状態を放置すると、口コミサイトの選考体験スコアが下がり、今後のスカウト返信率に悪影響を及ぼす悪循環に入る。
採用NPSと口コミサイトを連動させる管理フロー
推奨モニタリングサイクル(月次):
採用NPSのスコアと主要コメントを集計
OpenWork・Glassdoorの「選考・面接」カテゴリの新着口コミをチェック
NPSの批判者コメントと口コミサイトの内容に重複するテーマがないか照合
重複するテーマがあれば、その課題を最優先の改善対象とする
改善施策を実施した翌月に、両指標の変化を確認する
口コミサイトのネガティブ投稿に対して個別返信を行っている採用担当者も増えているが、返信内容は「感謝と改善意欲の表明」にとどめ、個別ケースの言い訳や反論は避ける。エンジニアのコミュニティでは、採用担当者の返信の質も企業評価の一部として観察されている。
6. 採用NPSの実装ステップ|ゼロから始める90日ロードマップ
小規模スタートアップがゼロから採用NPS計測を始める場合の90日ロードマップを示す。
Day 1〜30(設計フェーズ)
計測タイミングの確定: まずは「面接後」の1点だけから始める。全フェーズを一気に開始しようとすると設計が複雑になり、頓挫しやすい
フォームの作成: GoogleフォームまたはTypeformで匿名アンケートを作成。質問は3問以内に絞る
送付タイミングのルール化: 「面接終了翌日の10時までに採用担当がメールで送付」など、曖昧にしない
回答データの集計先確定: Googleスプレッドシートで十分。月次スコアと主要コメントを記録する
Day 31〜60(収集フェーズ)
設計したフローを実際の選考で運用開始
最初の1ヶ月は回収率の改善に集中する(目標: 面接後40%以上)
コメントは毎週確認し、緊急対応が必要なフィードバックを見逃さない
Day 61〜90(改善フェーズ)
最初の月次データレビューを実施
スコアが最も低いフェーズを特定し、改善施策を1〜2つ実装
翌月のスコアと比較して効果を検証する
スカウト・書類選考フェーズへの計測拡大を検討
採用NPSの導入でよくある失敗パターン
90日ロードマップを進める中で、多くの採用チームが以下の落とし穴にはまる。事前に把握しておくことで、同じ失敗を避けやすくなる。
失敗パターン1: 最初から全フェーズを計測しようとする 設計段階で「スカウト後・書類選考後・面接後・内定後の全フェーズに設置したい」という要望が出やすいが、一気に実装すると運用が回らなくなる。最初は面接後の1点だけに絞り、運用が安定してから拡張する。
失敗パターン2: スコアの数字だけ追って施策を打たない 「NPSが+5になった」「-3に下がった」という数値変動のみを報告し合っているだけでは何も変わらない。コメント分析から具体的な改善施策を月1つ以上実施することを必須にする。
失敗パターン3: 低いスコアを隠す NPSスコアが低いことを採用チーム内に開示したくない心理が働きがちだ。しかしスコアを隠すと、経営層や面接官が問題の深刻さを認識できず、改善に必要なリソースが確保されない。低いスコアほど透明に共有することが、改善の速度を上げる。
7. 採用NPSを経営に組み込む|社内への展開方法
NPSを採用チームだけの指標にとどめると、面接官を務めるエンジニアや経営層の行動は変わらない。採用CX改善を組織全体の取り組みにするために、以下の展開ステップが有効だ。
月次NPSレポートを経営会議に提出する
採用KPIとして「応募数」「書類通過率」「内定承諾率」を報告している企業は多いが、NPSを追加することで「なぜ承諾率が改善/悪化しているのか」の因果関係が見えるようになる。経営層に向けたレポートは、スコア・主要コメント・改善施策の3点に絞ってシンプルに伝える。
面接官NPSを個人別に集計して共有する
「面接官別NPS」を集計すると、どの面接官の評価が候補者体験に与えているかが見えてくる。ただし、個人を責める文化にならないよう注意が必要だ。改善の目的は「面接官として成長する機会の提供」であることを明示し、ポジティブなフィードバックと改善点をセットで伝える。
採用NPSを採用広報に活用する
NPSスコアが高い状態を維持できれば、それ自体を採用ブランドの訴求ポイントにできる。「当社の採用プロセスに対する候補者NPSは+42です」という数字は、採用ピッチ資料やキャリアページで強力な差別化要素になる。
採用NPSをカジュアル面談改善に活用する
採用CXの計測は選考プロセスに限定されがちだが、カジュアル面談後にもNPSを取ることで、選考転換率を下げている原因を特定できる。カジュアル面談後のNPSが低い場合、よくある原因は以下だ。
カジュアル面談が実質的に「一次面接化」している(評価されている感覚が候補者に伝わっている)
話し手が会社の魅力を一方的に話し、候補者の関心や状況を聞けていない
「次のステップについて連絡します」と言ったまま、その後の連絡が遅れている
カジュアル面談後のNPS設問は「このカジュアル面談を、友人エンジニアに勧めるとしたら何点ですか?」と少し言い換えると、候補者がより正直に回答しやすくなる。
8. 採用CX改善で実際に起きる変化
スカウト運用代行の現場でNPSを導入した後の変化を観察すると、以下のような改善パターンが現れることが多い。
1〜3ヶ月後: 「すぐ変わる」領域
書類選考の結果連絡スピードが改善される(NPSで可視化されると採用担当が意識する)
不採用通知の文面が丁寧になる
面接後のフォロー連絡頻度が上がる
3〜6ヶ月後: 「じわじわ変わる」領域
面接官の質問の質と傾聴姿勢が改善される(面接官別NPSのフィードバックの効果)
内定承諾率が微増する(候補者体験の向上がクロージングに寄与)
リファラル紹介が増え始める(「選考体験が良かった」という口コミが広がる)
6〜12ヶ月後: 「採用文化が変わる」領域
採用担当以外のメンバーも採用体験を意識するようになる
口コミサイト(Glassdoor等)のスコアが自然に改善される
採用ブランドが向上し、スカウト返信率が上がる
採用CX投資のROI試算
採用CX改善への投資対効果を試算する方法として、次のフレームワークを使うと経営に説明しやすい。
採用CX改善ROI = 改善によって削減できた採用コスト + 増加した採用機会価値
具体的な計算例を示す。月間の選考通過者が20名いる企業で、採用CX改善により内定承諾率が5%改善した場合(仮定: 承諾率55%→60%):
改善前: 20名の選考通過者 × 55% = 11名承諾
改善後: 20名の選考通過者 × 60% = 12名承諾
差分: 1名増加(エンジニア採用単価を100万円と仮定すると、採用コスト100万円相当の効果)
採用CXへの初期投資(Googleフォーム運用であれば実質ゼロ・Typeform有料プランでも月額数千円)と比較すると、ROIは数十倍になる計算だ。この試算を経営層に示すことで、採用CX改善への組織的なコミットを得やすくなる。
FAQ(よくある質問)
Q1. 採用NPSは何人くらい回収できれば統計的に意味がありますか?
月10件以上の回答が集まれば傾向をつかみ始められる。ただし30件未満の場合、外れ値(極端に低い・高い評価)の影響を受けやすいため、定性コメントの分析を定量スコアより重視する運用をすすめる。月30件を超えてきたらスコアの統計的安定性が増し、フェーズ比較や面接官別比較が意味を持ち始める。
Q2. 不採用者にもアンケートを送ってもよいのですか?
積極的に送るべきだ。不採用者のNPSは採用者より下がることが多いが、それこそが採用ブランドの真の評価だ。採用コンサル営業時代に見た事例では、不採用者への丁寧なフィードバックが「知人エンジニアへの口コミ紹介」につながったケースが複数あった。選考に落ちた人が「あの会社の選考は丁寧だった、転職するなら受けてみて」と言ってくれることが最強のリファラル源になる。
Q3. アンケートの回答率が10%以下で全然集まりません。どうすればよいですか?
回答率が低い場合、主に4つの原因が考えられる。(1)フォームのURLが埋め込まれておらず候補者がクリックしにくい、(2)アンケートが記名式または採用担当者名が明示されていて匿名性が担保されていない、(3)質問が多すぎて回答の心理的ハードルが高い、(4)フォーム送付のタイミングが遅すぎる(面接から3日以上空いている)。まずはこの4点を見直す。
Q4. NPSスコアを候補者に公開してよいですか?
公開は選択肢のひとつとして有効だ。ただし、スコアが低い時期に公開すると逆効果になるため、+20以上を安定的に維持できるようになってから採用ピッチ資料やキャリアページへの掲載を検討するのが現実的だ。
Q5. ツールは何を使えばよいですか?費用はかかりますか?
最初はGoogleフォーム(無料)で十分だ。回収数が月100件を超えてきたら、Typeform(月額有料)やDelighted(NPS専用SaaS)への移行を検討する。採用ATS(採用管理システム)によっては、候補者アンケート機能が内蔵されているものもある。
Q6. 面接官別NPSを集計すると、特定の面接官が炎上しませんか?
個人を責める使い方をすると逆効果になる。面接官別データを共有する際は、「改善の機会を提供する」という文脈でポジティブなコメント(高評価)とセットで伝える。また、開示対象を本人と直属のマネージャーに限定することで、心理的安全性を確保しながら改善を促せる。
Q7. 採用NPSは正社員の選考だけでなく、業務委託・副業候補者にも使えますか?
業務委託・副業採用にも有効だ。特に副業エンジニアはエンジニアコミュニティ内の横つながりが強く、採用体験の口コミが広がりやすい。副業採用では選考プロセスが短い分、フォームも「2問以内」に絞るとよい。スカウト後に即面談という流れが多い副業採用では、面談後の1回だけ計測するシンプルな設計から始めるのをすすめる。
Q8. スカウト返信率が低い媒体でNPSを計測しても意味がありますか?
返信率が低い状態でNPSを計測しても、返信した少数のサンプルしか計測できないため、偏りが出やすい。まずはスカウト文面の改善で返信率を上げ、月20〜30件以上の返信が安定して得られるようになってからNPS計測を導入するのが現実的だ。返信率の改善方法はエンジニアスカウトの返信率改善|データ分析とPDCA運用ガイドで解説している。
まとめ|採用CXを「計測できる経営指標」にする
採用CXの改善は、採用担当者の「頑張り」を可視化する手段でもある。スカウトの返信率や内定承諾率という結果指標だけでは、どのフェーズのどの施策が功を奏したかわからない。NPSを採用プロセスに組み込むことで、改善の根拠がデータになり、経営層や現場エンジニアを巻き込んだ組織的な採用力強化が実現する。
まず一歩として、次の面接後アンケートを1問で始めてみてほしい。「この会社の採用プロセスを、エンジニアの友人に勧めるとしたら何点ですか?」——その答えに、自社の採用ブランドのリアルが詰まっている。
採用CXの個別改善方法については、関連記事も参考にしてほしい。
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